和紙について

おそらく皆さんが和紙と聞いて想像する「冬の寒い日に、冷たい水を目の前に、木製の道具を前後左右に揺らしている場面」
そちらが、手漉き和紙です。
しかし、実は私たちの身近にある封筒などの和紙製品の多くには、 “機械漉き和紙”というものが使われているのです。

紙漉きは比較的産業として始めやすかったため、藩の財政を潤すため全国に広がりました。

明治時代には、西洋の紙(洋紙)が国内に入ってきます。
洋紙の普及に伴い従来の手漉き和紙が苦境に立たされる中、生産効率を上げるため 洋紙の技術を取り入れた機械漉き和紙が開発されました。

昭和時代には機械漉き和紙が需要を伸ばします。
弊社が創業したのも第二次対戦後すぐで、この頃には百貨店の掛け紙、株券、団扇の紙など日本の復活とともに機械漉き和紙で作られた製品はどんどん売れました。
当時、紙漉き職人の方々は皆で出資して機械漉きのマシンを購入したそうです。

生産効率・価格

一概に機械だからすべて安いというわけでは決してありませんが、手漉きに比べて生産の効率は上がります。
原料によっても値段は大きく前後します。

強度

機械漉きでは横揺れを与えることにより繊維の絡みをつけていますが、手漉きほど多層には出来ないため、強度が落ちます。

原料

楮だけで抄くと、繊維が長すぎて機械に適合しないので、何かを混ぜ合わせたり、楮よりも繊維の短い針葉樹のパルプを使うことが多いです。

大きさ・長さ

人一人が扱えるサイズを一枚ずつ漉いていく手漉きに対して、 機械漉きは巻き取りで抄くので、幅は1m前後と固定されていますが、長さは何千メートルと長いです。
これにより、ラミネート加工や輪転での印刷などを行うことが出来ます。 弊社の場合は、この巻き取りで抄いたものを、平版に断裁して入荷しています。

保存性

手漉きだから長持ち、機械抄きだから持たない、ということは一概には言えません。
一般に機械抄きのほうが効率を求めるためパルプなどを使用しますが、それはあくまで経営方針です。
楮を用いることで、長持ちすることが求められる修復の現場では、機械抄きの土佐和紙が非常に認められています。

知名度

手漉き和紙と比べて機械漉きの和紙の知名度は低いです。
「和紙なのに機械で造ってるの?」という反応をされる方もまだまだ多いです。
しかし、弊社で取り扱う和紙の95%は機械漉き和紙で、 高級和雑貨店等で販売されている商品に使用されている和紙も機械漉きがほとんどです。
機械漉き和紙自体の知名度は手漉き和紙に比べて低いですが、封筒や障子紙など私たちの身の回りにはたくさんの機械漉き和紙が溢れています。

和紙と洋紙の違い

特徴の違いを簡潔にお伝えしますと、 和紙は長い繊維を「絡める」のに対して、洋紙は短い繊維を「敷き詰める」ものです。

和紙

右の写真は和紙をちぎった写真です。
長い繊維がたくさん出てきている様子がご覧いただけるかと思います。
和紙は、長い繊維を「絡めて」いるため、ところどころに顕微鏡レベルでみるとわかる穴(隙間)がたくさんあります。
この繊維の絡みが和紙ならではの強度をもたらします。

日本固有の「流し抄き」という手法は、この絡みを生み出すことに非常に長けていたので、薄くて強いというのが和紙の世界での評価を上げました。

多孔質であるが故の、空気通りの良さも和紙の特徴です。
障子は、この微細な穴のおかげで、湿気などの気候を調節してくれるのです。

行灯は、光がやさしく漏れます。

まさに日本の風土文化に合った素材ですね。
また、墨を使って書くときなどに好まれる、微妙な吸い付きや滲みは、この特徴のおかげです。

洋紙

一方、洋紙は印刷するために生まれてきた紙ですので、印刷適性が最優先です。

短い繊維をシート状に固めることによって、隙間をなくすように作ります。
隙間があると、インクが抜けてしまい、印刷のにじみになるからです。
そのため、和紙に見られるような穴(隙間)はほとんど見ることができません。

反対に、和紙は印刷においては色が沈む、滲むなど言われますが、これも多孔質が故に起こることです。 昔から、滲みを抑えたいときにはドーサ引きと呼ばれる加工を行い、目を詰める工夫をしてきました。
機械抄きにおいても、サイズ剤という薬品と一緒に抄くことにより、印刷を可能にしています。

また、和紙と洋紙とを比較した際には、やはり価格面もよく問題になります。
長い繊維を絡めて作るため、どうしても洋紙より原料が増え、抄紙のスピードも上がりません。
需給のバランスもあり、必然的に洋紙に比べると、小ロットで抄かざるを得ないので、価格に跳ね返ります。
これは逆に、「小ロットでオリジナルの紙を作れる」という和紙の強みにもなります。